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    隠密、浩大の災難 ( 1 )

     いつもと変わらない朝。
     朝餉を済ませ、茶で一息吐いた夕鈴に、
    「お妃様、本日は政務室へと参られますか?」
    侍女が声を掛ける。
    「そうね。最近書庫の整理をしてなかったから、陛下がお見えになる前に少し進めておこうかしら。」
    そう言って夕鈴は席を立ち、部屋の扉をくぐり抜けた。
    「あっ、耳飾りが・・・」
    落ちた耳飾りを拾おうと彼女が身を屈めた瞬間、頭の上で風を切る音がし、ドンッと何かが当たった音がした。
    「え?」
    視線を上げると扉に矢が刺さっている。
    「お妃様!」
    2人の侍女が夕鈴を庇う様に囲い、彼女の腕を掴み部屋の中へ引き摺り入れ扉を閉める。
    「陛下をお呼びして参ります!」
    1人の侍女が黎翔の許へと駆け出し、もう1人の侍女は夕鈴が落ち着く様にと抱き締め、背を撫で続ける。
    『どうしよう、腰抜けちゃった。だっ、だって、もし耳飾りが落ちてなかったら、私、死んでたわよね?』
    しゃがみ込んでいる夕鈴は、侍女の腕の中で震えながら黎翔の到着を待った。

    「夕鈴!大丈夫か!?」
    黎翔の到着と同時に、侍女は夕鈴から離れる。
    「陛下!」
    「無事で良かった。どこも怪我してないか?」
    彼は侍女がしていた様に、彼女を抱き締め背を擦る。遅れて李順も部屋に掛け込んできた。
    「お妃様!ご無事ですね。状況をお話下さいますか。」
    「あっああの、部屋、部屋を出ようと・・・」
    震えている夕鈴の歯は噛み合わず、なかなか上手く話す事が出来ない。
    「君は何も喋らなくて良い。侍女よ、妃に代わり李順に説明せよ。」
    黎翔は、夕鈴の顔を己の胸に押し付ける様に抱き寄せる。
    「夕鈴、立てるか?」
    黎翔は彼女の掌を握り起たせようとするが、彼女のそれは酷く冷たく立つ事も出来ない。
    『無理も無い、余程怖かったのだろう。』
    彼女を抱き上げた黎翔は、寝所へと足を進める。寝台に夕鈴を降ろし、
    「君はここで少し休んだ方が良い。私達は居間に居るから、何かあったら呼んでくれ。」
    踵を返そうとした黎翔の袖を、夕鈴は握り締めていた。
    「あっ、ごめんなさい。何でもありません。」
    彼女は慌てて手を離し、顔を俯かせる。再度彼女を抱き締めた黎翔は、
    「本来なら安全な場所である後宮で、危険な目に合わせてすまない。1人になるのは不安か?」
    「いえ、少し動揺しちゃっただけですから。もう大丈夫です。李順さん達とお話があるんですよね?私の事は気にしないで下さい。」
    無理に笑顔を作る夕鈴を、黎翔が一人きりに出来る訳がない。再度彼女を抱き上げた黎翔は居間へと戻る。
    「あの、私っ大丈夫ですから。えっと、降ろして?」
    「降ろしても、今の君は立っていられないだろう。大人しくしているんだ。」
    夕鈴を抱いた儘、居間に戻った黎翔は、
    「李順、老師に夕鈴が落ち着ける飲み物を用意させよ。」
    「・・・畏まりました。」
    李順は老師の許へ赴き、黎翔からの要件を伝える。飲物を手に戻ってきた李順は、それを黎翔の膝の上で横抱きにされている夕鈴に差し出す。黎翔が夕鈴よりも先にそれを手にし、
    「これをゆっくり飲むんだ。気持ちが落ち着く。」
    「はい。」
    黎翔に言われた通り、夕鈴はそれを少しずつ口に含み飲み干した。
     黎翔は先程と同じ様に彼女の背を撫で続ける。すると程無くし、夕鈴の瞼がとろんと重くなり、やがて彼に凭れ掛り寝息を立て始めた。
     黎翔が掌を上げ、侍女が足音を立てず部屋を出て行く。
    「浩大、刺客は?」
    その声に窓から侵入した浩大は、
    「あぁ~、逃げられちゃいました。」
    「逃げられただと?」
    「ははは・・・すみません。」
    気不味そうに蟀谷を搔く。
    「お前から逃げ切るとはな。」
    「弓を射った場所は、正面の建物の屋根からっすねぇ。」
    「正面の建物?かなりの距離があるぞ?」
    「良い腕前っすねぇ。正確に射られてたでしょ?矢が放たれるまで気配も感じさせなかったし、おまけに逃げ足も速いしさぁ。かなりの兵っすねぇ。」
    「敵を褒めてどうする。それだけの者なら、獲物を仕留めるまで狙うかもしれんな。」
    「でしょうねぇ。オレ1人で守りきれるかなぁ。」
    「守る必要は無い。」
    「へ、どう言う事?お妃ちゃん見殺しにする気?」
    片方の口角を上げた黎翔が、じっくりと浩大を見ている。
    「あ~、なんかオレ、すげぇ嫌~な予感するんだけど。」
    「ほう、流石は私の道具だ。主の考えが解ったか。」
    「陛下、どうなさるので?」
    李順だけが意味が解らず、頭上に疑問符を浮かべている。黎翔はそんな彼の問い掛けに応えず、只意味有り気な笑顔で浩大を見詰め、浩大はガックリと項垂れるのだった。
    「夕鈴には刺客が捕まるまで、掃除婦姿で過ごさせる。」
    黎翔の言葉に、李順は中指で眼鏡を押し上げ、
    「陛下、夕鈴殿は囮役でもあるのです。刺客を捕まえるには・・。」
    「囮は居る。今回の刺客は腕が良い様だからな。夕鈴では危険だ。」
    「囮役が居るのでしたら構いませんが。確かに昼間は老師の許で掃除婦をしている方が安全です。しかし、夜はどうしますか?」
    「私の私室で過ごせば良い。」
    李順は卓に手を突き、黎翔に攻める様に声を荒げる。
    「な!駄目ですよ。何考えてるんですか!不潔です!」
    「別に何もしない。私の近くに居るのが一番安全だからだ。私は長椅子で寝る。」
    「陛下を長椅子で寝かせる事など、私が容認出来ると思ってるんですか?」
    「夕鈴を長椅子で寝かせるなど、私が許さん。それが許せないのであれば、私と夕鈴は一緒の寝台で眠るが?」
    「それは駄目です!解りました、仕方ありません。今回だけですよ。」
    渋々了承した李順に、
    「一緒に眠ったところで、この様な状況で手を出す筈がなかろう。少しは信用しろ。」
    「他の事では信用してますけどね。夕鈴殿の事に関しては信用出来ないんですよ。」
    そんな言い合いをする2人の声は、どんよりと落ち込んでいる浩大には全く聞こえていない。
    「それにしても・・・自ら囮を買って出た事もある彼女が、随分な脅え様でしたね。」
    「当然だ。偶然耳飾りが落ちなければ、射抜かれていたんだぞ。」
    「まぁ確かに。己の部屋の前で襲われるなんて、思ってもいなかったでしょうからね。」
    「刺客はこの部屋の場所を正確に知っていた。内通している者が居るな。」
    「ええ、それについては後宮に仕える全ての者を調べています。」
    「これからは家族宛ての手紙だろうと、内容を確認した方がいいな。」
    「そうですね。本物の妃を迎えた後も、この様な事は有り得ますからね。」
    「・・・李順、老師に夕鈴の部屋を変える様、手筈させろ。それとは別に、もう1つ部屋を。氾の娘と会う時は、そちらの部屋を使わせる。」
    「そこまで必要ですか?氾大臣の息女は大丈夫なのでは?」
    「念を入れるに越した事は無い。」
    夕鈴を抱え立ち上がった黎翔は己の私室へと戻り、寝台に彼女を寝かせるとその端に腰を下ろし、ずっと彼女の掌を握り締めていた。



     翌早朝、
    「いててっ、苦しいっ、苦しいって!」
    夕鈴の元の私室では、浩大の悲鳴の様な声が響いている。
    「仕方がありませんわ。お妃様は腰回りが大変細うございますからね。少しでも悟られない様にするには、これくらい辛抱なさって下さいませ。」
    2人の侍女が、浩大に纏わせた妃の衣装の帯をグイグイと締め付ける。
    「はぁ~、こんな格好で刺客を追えるのかぁ?」
    「大丈夫ですわ。ここの紐を引いて頂けば帯は直ぐに解け、簡単に衣装を脱ぐ事が出来ますから。」
    「刺客が捕まるまでオレ、1日中この恰好してるのかな?」
    「ああ、刺客を捕まえるまでな。」
    浩大の着替える様を眺めていた黎翔がそれに応える。
    「はぁ~、まぁいいか。暖かい布団で寝れるんだし。」
    「誰がその様な事を許した。長椅子で寝るんだ。」
    「えぇ~、何で?」
    「彼女の寝ていた場所に、お前を寝かせる訳なかろう。」
    「うわぁ、独占欲丸出しじゃん。」
    浩大は溜息を吐き黎翔に呆れる。そんな彼に、
    「浩大殿、最後の仕上げです。」
    と、黎翔と共にその様を見ていた李順が、彼に長い髪の鬘を差し出す。
    「うわぁ、気持ち悪いな~。人の髪を被るなんて。」
    「隠密が、変装くらいで狼狽えてどうすんです。」
    「そうだけどさ、オレ女装はした事ないしねぇ。」
    と、躊躇している浩大の頭に、李順は無理矢理鬘を被せた。
    その姿を目の当たりにした黎翔と李順は、
    「・・・似合うものだな。」
    「ええ、予想外に・・・。」
    そして侍女までも、
    「可愛らしいですわね・・・。」
    揃いも揃って褒め称える。
    「それって喜ぶべきなのかなぁ。」
    言われた本人は複雑な表情だ。
    「浩大殿、刺客にはこちらが警戒していると見せ掛ける為に、警備は倍に増やしてあります。上手く誘き寄せて下さいね。」
    李順の言葉に浩大は複雑な表情のまま、
    「空気読んで、早いとこ襲ってくれるといいんだけどねぇ。」
    そんな浩大の願いは叶わず、刺客が現れる事無く1週間が経過した。
     尤もそれにより、良い思いをしている者が1人居る。それは黎翔だ。刺客を捕えるまでは己の私室で夕鈴が眠る。それにより、毎晩彼女の寝顔を眺める事が出来るのだ。このまま刺客が現れなくても良い、とまで思い始めている。

    「警備を元に戻しましょう。」
    黎翔と夕鈴の仲がより親密になってしまうのではないか、と懸念している李順が、刺客に警戒を解いたと思わせようと黎翔に助言する。
    「・・・もう少し様子を見た方がいいんじゃないのか?」
    本当ならば李順の助言など却下をしたい黎翔だが、己の真意を知られる訳にはいかない。
    「いいえ、流石に今の厳重な警備では、刺客も易々とは近付けません。捕えるには、こちらに近付いて貰う事が必要ですからね。」
    「まぁ、そうだが・・・」
    「・・・陛下、ちゃんと捕まえる気はあるんですか?」
    「当たり前だ。ヤツを雇った黒幕を処罰する必要があるからな。警備の件はそれで構わん。」
    黎翔は立ち上がり、何処かへ行こうとしている。
    「どちらに行かれるんですか?まさか立入禁止区域ではないですよね?」
    「・・・妃が変わったと悟られない様に、少々妃を愛でに行くんだ。」
    「それなら結構です。しっかりと演技する様にお伝え下さい。」
    李順の言葉に溜息を吐いた黎翔は、目的の場所を変え後宮へと足を進めた。
    「陛下~、ここまでする必要あるんすか~?オレ男色じゃないですよ。」
    「お前が刺客を逃がしたからだろう。私とて、こんな事を好んでしていると思ってるのか?」
    後宮の四阿で、妃の格好をした浩大が黎翔の膝の上に腰掛けている。時折黎翔が彼女、いや彼の耳元で何かを囁き、彼は俯き袖で顔を隠している。傍から見れば以前と同様の、仲睦まじい国王夫婦だ。
     浩大を揶揄う事に面白みを覚えた黎翔は、彼を強く抱き締める。
    「へっ陛下、気持ち悪いって・・・。こんなのお妃ちゃんに見られて、誤解されたって知らないっすよ?」
    「ふん、日中彼女が禁止区域から出る事は無い故、見られる事もない。」
    そこでふと、黎翔はある事に気付いた。
    「あぁ~。」
    彼は唸り、浩大の肩に顔を埋める。
    「なっなんすかっ!?あんま顔近付けないで下さいよ~。」
    「禁止区域から出ないって事は、夫婦演技が出来ない。と言う事はさぁ、こんな風に夕鈴を抱き締める事も出来ないんだよ。」
    「え?今頃気が付いたの?ちょっと遅いんじゃ・・・」
    「毎夜寝顔を見られるものだから、すっかり忘れてた。」
    黎翔はションボリと浩大の肩に顔を埋めた儘、
    「急ぎ刺客を捕まえろ。捕まえるまで、お前には酒を呑ませんからな。」
    「えぇ~、マジで?向こうが来てくんなきゃ、捕まえようがないって言ってるじゃん。」
    「逃がしたお前が悪い。では、しっかりと妃を演じろよ。」
    夕鈴の話が出て、やはり彼女に会いたくなった黎翔は、浩大を膝から下ろすと禁止区域へと向かった。
     取り残された浩大は、
    「ずっとこんな格好で、いい加減、体が鈍っちゃうよ。早いとこ、刺客が現れてくれないかなぁ。」
    ぐったりとしながら呟くのだった。


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