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    偽りの代償 ( 3 )

     夕鈴が水月の私邸で働き始めて数日後、水月は夕鈴に似合いそうな髪飾りを送ろうと、街へ買い物に出掛けた。そんな彼の眼に留まったのは、見覚えのある男だ。
    「方淵、こんな所で何をしているんだい?今日は休暇かい?」
    「水月!キサマ、また引き籠るつもりか!?いい加減に出仕したらどうなんだ。」
    「それは無理だよ。お妃様が居なくなられて、陛下は以前より恐ろしくなられた。それに今は、屋敷に居るのが楽しくてね。」
    「お前の妹君が正妃になるからと、そんな甘えた事が許されると思っているのか!」
    「妹に甘えるつもりはないよ。そんな事より、君はここで何をしてたんだい?」
    「・・・あの娘を探していた。」
    「ここでは話難いね。個室のある店で茶でも飲みながら話そうか。」
    2人は数件目に個室のある飯店を見付け、そこで茶と軽い食事を頼んだ。
    「それで方淵。あの娘とは、お妃様の事かい?」
    「今はもう妃ではない。貴族では、あの娘と思われる者は居なかった。出所不詳だったのだから庶民の可能性もある。だから街の中を探していたんだ。会ってあの娘に、何故後宮を後にする事になったのか聞きたくてな。」
    「彼女が理由を知っているとは思えないけど。」
    「だから言ったんだ、寵愛など一時の幻だと。馬鹿な娘だ。」
    「君は彼女に会って、そんな事を言いたいのかい?彼女の心の傷を抉る様な事を。」
    「・・・・・・」
    「そんな事を言う為に、わざわざ彼女を探していた訳じゃないのでは?陛下の為かな?」
    「・・・最近の陛下は、何かを忘れる為に政務に励まれている様にしか見えない。しかも夜は、かなりの量の酒を呑まれているご様子だ。睡眠もきちんと取られていないのかもしれん。この儘ではお体を壊されてしまう。」
    「忘れたいのは夕鈴さんの事なんだろうね。眠ると彼女の夢でも見てしまうのかな?そんなご様子の陛下の寵愛が醒めたとは思えないけど?」
    「そこまでして忘れたいのは何故だ?」
    「愛しているからだよ。」
    「では何故手放した?」
    「1つ気になる事があるんだけど。」
    「どんな事だ?」
    「夕鈴さんは以前、着飾る仕事をしていたらしいんだ。詳しい事は話して貰えなかったんだけどね。」
    「それのどこが気になるんだ?」
    「妃で居る事が仕事だったら?」
    「お前は馬鹿か?そんな仕事がある訳なかろう。」
    「しかしご家族まで妃だった事を知らないなんて、奇怪しいと思わないかい?」
    「確かにそれは奇怪しいが・・・なんの為に妃など雇う必要がある?」
    「なんだろうね?実は陛下には子種が無いとか、男色とか・・・」
    「キサマ、陛下を侮辱するのか!」
    「ああ、男色はないだろうね。どう見ても夕鈴さんを愛しておられたし。」
    「当然だ。下らない推測などするな。」
    「そうかな?一向に懐妊しなかったのは・・・実はお手を付けてらっしゃらないんじゃないかな?夕鈴さんを近くで見ていると、彼女は未だに生娘なんじゃないかって思えてね。本当に些細な事で初心な反応を見せるんだ。」
    「おい、近くで見ていると、とはどういう事だ。」
    「君の予想通り彼女は庶民だ。今は私の私邸に居るよ。私は彼女に似合う髪飾りを送ろうと思ってね。買い物に来たところだったんだ。」
    「何故お前の私邸に?」
    「街で偶然に見掛けたんだよ。弟さんの学費を稼ぐ為に仕事を探していたらしくてね。それで私邸に来て貰ったんだ。」
    「弟の?」
    「うん、夕鈴さんと顔がそっくりで。ふふっ、でも性格は弟さんの方が大人しいんだよ。」
    「そんな事はどうでもいい。・・・で、あの娘の様子はどうなんだ?」
    「とても辛そうだ。一見普通にしてるけど、寝言で陛下を呼んで、涙を流してたよ。」
    「寝言!?キサマ、まさか!」
    「何もしてないよ。様子を伺っただけだ。」
    「寝顔を覗いた等と、陛下に知られたら手打ちになるぞ。」
    「今の彼女は、あの方のお妃様ではないよ。」
    「それはそうだが・・・。話を戻すが、仮に雇われた妃だろうと、本物の妃にする事は出来るだろ。」
    「まぁ確かに。」
    「私が知りたいのは、何故愛していながら手放されたのかという事だ。」
    「彼女が庶民と言う事が関係しているのかな?でも、過去にも庶民出の妃は居られたし・・・」
    「だが庶民の娘では、正妃どころか四妃になる事も無理だろう。」
    「そうだね。だからかな?他の娘を娶る己の姿を見せたくないんじゃないかな。」
    「だから手放したと?」
    「まだ懐妊された訳ではないし、手放せなくなる前に・・・という事かな。」
    「愛しているが故か・・・」
    「正妃でもない彼女が、陛下の唯一の妃で居続ける事も難しいだろうしね。」
    「娘を妃に、と望む者達にとっては邪魔な存在だ。」
    「彼女が正妃になっても、誰も文句など付けられない様な家柄の出だったら、手放す事などなかったんだろうね。」
    「しかし、そんな育ちの娘だったら、陛下は興味を持たれなかったのではないか?」
    「ああ、そうかもしれないね。夕鈴さんは貴族の娘と随分違うからね。」
    「女だと言うのにガサツだ。」
    「それでも恋する乙女の様なところもあって・・・可愛らしいお方だ。陛下はもし、彼女が誰かの花嫁になる事となったら・・・諦められるのかな?」
    「おいキサマ、何を考えている?」
    「陛下が彼女を傍に置いていた理由が、少し解った気がするんだよ。彼女と居ると毎日が楽しくて、それでいて落ち着く。時折見せる、何かに耐えている様な表情を見ると、守って差し上げたくなる。どうやら私は、彼女を好きになってしまった様だね。」
    「お前、あの娘を娶るつもりか?」
    「う~ん、彼女の承諾も必要だし・・・。方淵、明日の夜に私の私邸、いや、妹の私邸に来てくれるかな?」
    「それは構わないが・・・」
    「彼女が承諾してくれるか、君も気になるだろう?だから明日話すよ。」
    「気になる訳ではないが・・・解った。明日の夜、妹君の私邸に伺おう。」
    「それじゃ私は、髪飾りを買いに行ってくるよ。」
    水月は方淵を残し、会計を済ませ店を出た。そして方淵も、頼んだ食事に殆ど手を付ける事無く、店を後にするのだった。



     買い物を済ませ私邸に戻った水月は、直ぐに夕鈴の自室を訪れた。
    「夕鈴さんにこの髪飾りを買ってきたのですが、使って頂けますか?」
    「えっ、私にですか?」
    「ええ、貴女に似合うと思いましてね。髪に挿してもいいですか?」
    「あっ、はい。お願いします。」
    水月は購入してきた髪飾りを夕鈴の髪に挿す。
    「良くお似合いですよ。」
    「ありがとうございます。でも水月さん、私は使用人なんですから、あまりお気遣いなさらないで下さい。」
    「夕鈴さん、もう1つお話があるんですが。」
    「はい、なんですか?」
    「私の花嫁になって下さいませんか。」
    「はい?水月さん、何を仰って・・・」
    「きっと私は、紅珠の私邸で初めて貴女にお会いした時から、貴女に魅かれていたのかもしれません。あの方の事は、私が忘れさせて差し上げます。」
    「忘れなきゃ・・・いけないんでしょうか・・・そうっ、ですよね。忘れた方がいいんですよね。・・・でっでも私、どこにいても陛下の味方でいるって・・・」
    「味方でいる事と想い続ける事は違います。陛下は紅珠を選んだ。貴女がいつまでも辛い思いをする事はないんです。」
    水月は、声を詰まらせながらも涙を流さないよう耐えている夕鈴を優しく抱き締め、
    「私の花嫁になってくれますね。」
    夕鈴は僅かに頷いた。
    「あの、直ぐには無理、です。私はまだ、弟の学費を・・・」
    「それは私が援助します。貴女はもっと、夫となる私を頼って下さい。」
    その言葉に夕鈴の脳裏には黎翔の声が響く。
    『夫を頼って・・・』
    何度か同じような事を黎翔に言われた。その時の彼の表情も蘇り、夕鈴は水月の胸の中で耐え切れなくなった涙を流すのだった。

     翌日の夜、水月は紅珠の私邸に方淵が着いたとの知らせを受けた。
    「夕鈴さん、私は少々出掛けてきますので、留守をお願いします。」
    「あの、どうして方淵が紅珠さんの私邸に?」
    「何か話があるとの事だったんですが、こちらに呼ぶ訳にはいきませんので、紅珠の私邸に来て貰ったんですよ。」
    「それは私が居るから・・・ですよね。」
    「今はまだ、方淵と顔を合わせたくはないでしょう?」
    「すみません。ご迷惑をお掛けして。」
    「どうして謝るんです?私は貴女の夫となるんですよ。花嫁を気遣うのは当然でしょう。」
    水月は夕鈴を抱き寄せ、
    「では出掛けてきます。何か少しでも困った事があったら、直ぐに使いを出して下さい。」
    水月を見送る夕鈴は、抱き締められた驚きで顔が真っ赤だ。俯いた彼女は胸に手を当て、
    『びっくりした。あんなに自然に抱き締めてくるなんて。でも・・・昨日もそうだったけど・・・陛下の時みたいに・・・胸が締め付けられる様な・・・そんなのは無い。』
    顔を上げた夕鈴は掌で己の頬を2度叩き、
    「比べちゃだめよ。忘れるって決めたじゃない!しっかりしなさい、私!」
    少々力が強かったらしい。彼女はヒリヒリする頬を摩りながら、部屋へと戻って行った。



     水月が夕鈴に婚姻を申し込んだ後、黎翔と紅珠の婚礼の儀の日程が正式に決まった。そして儀の数日前、暫く出仕していなかった水月が、何食わぬ顔で政務室に顔を出した。
    彼の姿を眼にした黎翔は、
    「水月、やっと出てきたか。もう私が恐ろしくは無くなったのか?」
    「いいえ、陛下は相変わらず恐ろしいですが、今日はお話があり出向いて参りました。」
    「おい、キサマ!」
    水月を怒鳴る方淵を手で制した黎翔は、
    「ほう、どんな話だ。方淵は内容を知っている様だが?」
    「その前にお人払いをお願いしたいのですが。」
    「なんだ、そんなに大事な話なのか?」
    黎翔は手を上げ、政務室に居た者は李順と方淵を残し、皆外へと出て行った。
    「陛下、私事ではありますが、この度婚姻する事となりました。」
    「ほう、それは目出度いな。何も人払いする様な事ではないではないか。で、相手はどこの娘だ。」
    「庶民の出の娘です。名は汀夕鈴と申します。」
    「・・・そう、か。」
    「婚礼は陛下の婚礼の儀と同じ日となりますので、申し訳ございませんが、私は儀に参列する事が出来ません。」
    「ああ、構わん。方淵は、彼女が水月と会っている事を知っていたのか?」
    「申し訳ございません。あの方は今、水月の私邸に居ります。」
    頭を下げる方淵に、
    「謝る事ではない。彼女はもう、私の妃ではないのだからな。そうか、水月の私邸に・・・。知っていたのなら、せめてお前だけでも、政務室の官吏を代表して式に参列してやれ。臣下は皆、私の儀に参列するからな。」
    「御意に。」
    「水月、彼女を幸せにしてやってくれ。李順、少し疲れた。今日はもう休む。」
    「・・・畏まりました。」
    黎翔が政務室を後にすると、李順は水月に向け、
    「貴方が夕鈴殿と婚姻するとは思いませんでしたよ。」
    「街で偶然再会し、私の私邸に来て頂いたのです。」
    「何も彼女の名を告げる事は無かったのではないですか?」
    「そうでしょうか。想いを断ち切るには、このくらいの事は必要かと思いますよ。他の女性を想った儘、私の妹と婚姻を結ぶなんてして欲しくないですからね。」
    「しかも・・・婚礼が同じ日とは・・・」
    「暦で良い日を選んだ結果です。では、私は失礼します。」
    水月は政務室に来た時と同様、何食わぬ顔でそこを後にした。



     そして婚礼の儀当日、空は2組の婚礼を祝福するかの様に快晴・・・とはならず、今にも雨の雫が落ちてきそうな、分厚い雲に覆われていた。その空を見上げた黎翔は、
    「まるで私の心の中を表している様だな。」
    と自らを嘲笑う。
     婚礼の儀には臣下を始め、大勢の者が参列している。
    そして儀が始まり、婚礼用の衣装を身に纏い、冕冠を着用した黎翔は、同じく婚礼用の衣装を纏った紅珠と、祭壇を挟む形で向い合せに椅子に腰掛ける。祭壇には婚姻を結ぶ者が飲み交わす酒が置かれている。
     婚礼の儀は粛々と進み、間もなく酒を飲み交わさなければならない。これを終えてしまうと、紅珠は正式な妃となってしまうのだ。
    『あの酒を飲み交わせば、彼女は誰もが認める正妃となり、儀が終われば今宵は初夜となる。私はこの娘を抱く事など出来るのか?』
    黎翔は祭壇を見詰めながら心の中で呟く。黎翔は再度、己の心を表す空を見上げ、
    『今頃は夕鈴も・・・。滑稽だな。こんな思いをするなら、彼女を直ぐに帰すべき、いや、会わなければ良かった・・・臨時花嫁などと馬鹿な事を考えなければ、巡り合ってしまう事も無かったんだ。』
    彼は目頭が熱くなり、現実を呪いながら瞳を閉じた。


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    もう短編って言えないですよね^^;
    ダラダラ長く書く癖が付いてしまっているとしか言い様がないです。。。
    なので、新たに中編枠を作ります(〃'∇'〃)ゞポリポリ
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    管理人は熱しやすく冷めやすいです。飽きるのが早いです。長続きしないと思われますが、どうぞそれまでお付き合いください。

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