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    秘め事 ( 完 )

    視察から戻り数週間が経った。何時もの日常が戻り、夕鈴は後宮立入禁止区域を掃除している。
    「掃除娘、今日も精が出るのぅ。」
    老師が粽を頬張りながら入ってきた。
    「老師、また歩きながら物を食べて・・・」
    「所用で昼餉を食べ損ねての。これなら歩きながらでも食べられるじゃろう。」
    「それでも歩きながら食べるなんて、お行儀が悪いですよ。」
    粽は出来たての様で湯気が立っている。徐々に老師が近付くと、粽の匂いが夕鈴の鼻を衝く。
    「う・・・」
    夕鈴が口元を抑え、呼吸を荒くした。
    「掃除娘、どうしたんじゃ?」
    「いえ、ちょっと胃の辺りが・・・」
    「食い過ぎかのぅ。侍医に湯薬を貰うと良い。」
    「はい。掃除が終わったら貰いに行ってきます。」
    「夜にはまた陛下のお越しがあるのじゃろう?心配されるから、今日は早めに終えて休んでおけ。」
    「そうですね。じゃあ今日はもう終わりにしますね。」
    「ふむ」
    夕鈴は着替えをし、侍医の元へ湯薬を貰いに行った。
    しかし翌日も、朝餉でも昼餉でも匂いで吐き気があった。饅頭を食べている老師が近付くと、顔を歪める。
    「・・・お主、月物はあるのか?」
    「月物?」
    「ふむ」
    「・・・」
    そう言えば遅れている。でも行為をしたのはあの1度だけだ。身籠ったとは思えない。
    「遅れているだけだと思います。ほら、遭難して体を冷やしちゃったから。」
    「・・・見て貰った方が良さそうじゃのう。しかし侍医に見て貰う訳にはいかぬか。掃除娘、その格好のまま付いてこい。」
    「?はい。」
    老師に付いて行くと、そこは泊り込みで働く下女や下男の宮だ。そこの医師に見て貰うらしい。
    「医師よ、この者をちと診てくれんかの?吐き気があるらしい。」
    「はい、解りました。」
    夕鈴は寝台に寝かされ、脈等を見られる。医師は小声で老師に何かを伝えている。
    「掃除娘、行くぞ。」
    「はい。」
    先程掃除していた部屋に戻り、椅子に向かい合わせで座る。
    「・・・身籠っているそうじゃ。相手は誰じゃ?」
    「え・・・身籠ってって・・・」
    「その吐き気は悪阻じゃのう。相手は誰なんじゃ?」
    「相手・・・」
    「いくら臨時とは言え、お主は唯一の妃じゃ。その妃が陛下以外の子を身籠ったとあっては、お手打ちになるような事じゃぞ。正直に話せ。相手によっては言い逃れも出来るやもしれん。」
    「・・・」
    「言えない様な相手なのか?もっもしや若造眼鏡とか・・・」
    「それは絶対にないです。やめて下さい。」
    「じゃあ誰なんじゃ。」
    「相手は・・・」
    「相手は?」
    「誰にも言いませんか?」
    「場合によるのう。」
    「相手は・・・陛下なんです。」
    「へ?」
    「陛下なんです。」
    夕鈴は事の成り行きをすべて話した。
    「そういう事か・・・なら陛下に話した方がいいじゃろう。」
    「いえ。絶対に言わないで下さい。」
    「しかしいずれ解る事じゃ。どうする気じゃ?」
    「少し考えます。」
    「ふむ・・・今日は掃除を終えて部屋で休むが良い。」
    「はい・・・」
    「しかしなんじゃな。わしが付いて行った真の目的が、あの遭難騒動で果たせなかったと思ったが、どうやら果たせていたようじゃのう。」
    「はい?真の目的?」
    「いやいや、こっちの話じゃ、気にするな。」
    「はぁ。」
    「早く部屋に戻り休め。」
    「はい・・・」

    夜になり夕鈴は何時も通りに黎翔を迎える。双六をしながら雑談をし、何事も無いかの様に装いながらも、彼女の頭の事は別の事を考え込んでいた。
    「夕鈴、僕今日はもう戻るよ。」
    黎翔の言葉に夕鈴はハッとする。
    「まだいつもより早いんじゃないですか?」
    「うん、でも夕鈴、今日はなんだか疲れているみたいだし。また明日の夜来るから。」
    「・・・すみません。」
    「気にしなくて良いよ。おやすみ」
    黎翔は夕鈴の髪の毛を一房手に取り、そこへ口付けると部屋を出ていった。黎翔が出ていった扉を眺めながら夕鈴は決意をする。
    『早い方が良いわよね・・・』
    上衣を羽織った夕鈴は回路に出て、ある場所へ向かった。
    「夕鈴殿、こんな時刻にどうしたんですか?陛下はもう私室に?」
    そこは李順の私室だ。
    「はい、お戻りになりました。李順さん、折り入ってお願いがあるんです。」
    「なんですか?まぁ取敢えず中へ入って下さい。」
    夕鈴は李順の部屋に通され、
    「李順さん、申し訳ありませんが、今すぐバイトを辞めさせて下さい。」
    「はい?今すぐ!?」
    「はい、今すぐです。」
    「こんな時刻にですか?」
    「はい・・・」
    「急にどうしたんです?」
    「理由は・・・一身上の都合と言う事で・・・」
    「私は構いませんが、借金は鐚一文負けられませんよ。」
    「はい、必ず返します。」
    「・・・今すぐと言う事は、このまま後宮を後にすると言う事ですか?」
    「はい。」
    「しかしこんな時刻では、バイト代の精算も出来ませんし、明日にしたらどうです?」
    「バイト代は全部、借金の返済に充てて頂いて構いません。」
    「・・・どうしてこんな急に?」
    「・・・」
    「理由は言えないんですか?陛下と何かありましたか?」
    「いえ、陛下は関係ありません。私の我儘と思って頂いても結構です。」
    「解りました。陛下には私から明日報告しておきます。」
    「ありがとうございます。」
    夕鈴は部屋に戻ると、着替えてそのまま後宮を後にした。

    翌朝、李順は早朝から後宮陛下私室に向かった。
    「李順、今日は朝議がないのに随分早いな。」
    「陛下にお話がございます。お人払いをお願いします。」
    「・・・なんだ?」
    黎翔は人払いをし、李順の話を只黙って聞いている。
    「そうか・・・昨夜の彼女の様子はそういう事か。」
    「様子と言いますと?」
    「何かずっと考え込んでいる様子だった。」
    「・・・そうですか。」
    黎翔は口を閉ざし、窓の外を見詰めていた。



    夕鈴が後宮を去ってから3日が経ち、政務の昼休憩の時間に、黎翔の侍女が李順を訪ねた。
    「あれから一度も食事を召し上がっていない?」
    「はい。朝昼晩一度も召し上がっておりません。」
    侍女の言葉に李順は急ぎ黎翔を探す。王宮庭園の四阿に黎翔の姿を見つけた。そこは、よく昼休憩に夕鈴と共に過ごしていた場所だ。黎翔は何をするでもなく、ただ己の傍らを見詰めていた。李順は静かに近寄り、
    「陛下、侍女から伺いました。食事をされていないようですね。」
    黎翔からの返事は無い。
    「このままでは体を壊されます。夕餉は必ず食されて下さい。夜、ちゃんとお食べになられたか確認に伺います。」
    黎翔は聞いているのかわからない。今はこれ以上何を言っても無駄だろう、そう判断した李順は踵を返した。
     夜になり李順は黎翔の私室に向かった。しかしそこには彼の姿は無かった。
    「陛下はどちらですか?」
    侍女に問うと、
    「この3日間お酒を手にし、どこに行かれるとも告げずに部屋を出て行かれております。」
    ・・・行く所は一カ所しかない。李順は迷いなく夕鈴の使っていた部屋に向かった。
    「陛下、明かりも点けずに何をなさっているのですか。」
    長椅子に座っている黎翔は、返答することもなく、只酒をゆっくりと口内に流し込んでいる。
    「こんなに暗くては何も見えないでしょう。」
    李順が明かりを点けようとすると、
    「点けるな!」
    黎翔がやっと口を開いた。
    「しかしこのような暗がりでは・・・」
    「点けないでくれ。点けると彼女の姿が消えてしまう。周りが見えると、ここに彼女が居ない現実を突き付けられる。暗がりだけなんだ、彼女の姿が見えるのは。」
    黎翔の震える言葉に、李順は何も言えなくなる。
    「李順、一人にしてくれ。」
    李順は黙って踵を返した。
     李順が去ってすぐ、浩大が窓から顔を出す。
    「浩大、今はお前の相手をしたくない。一人になりたいんだ。」
    黎翔の言葉に浩大は、
    「張のじーちゃんに頼まれて来たんだよ。話したい事があるってさ。」
    「今は誰であろうと話をしたくない。」
    「う~ん、でもお妃ちゃんがバイトを辞めた理由っぽいよ?」
    「・・・老師は理由を知っているのか?」
    「みたいだね。それで陛下に話あるってさ。」
    「・・・すぐ行く。」
    黎翔は老師の私室を訪ね、椅子に腰を下ろした。
    「老師、夕鈴が辞めた理由を知っているらしいな。」
    黎翔の問いに、老師は答える。
    「お妃には口止めされておりましたが、やはり陛下には、御報告した方が良いと思いましてな。」
    「・・・で、理由とは?」
    「はい・・・彼女は身籠っております。」
    「!みごも・・・・・・」
    絶句した黎翔は、その後笑いだした。
    「陛下、何が可笑しいのですかな?」
    「可笑しいだろう。まさか彼女が身籠っていたとは。何時の間に・・・」
    「・・・相手はお聞きになられませんのか?」
    「聞いてしまったら、私はその者を手打ちにするだろう。知らない方が良い。」
    「手打ちには出来ませんでしょうな。」
    「・・・どう言う事だ。」
    「相手は陛下ですから。自らを手打ちには出来んでしょう。」
    「待て!私は彼女にその様な事をした事は無い。」
    「遭難された時の事は覚えておりませんか?」
    「それは覚えているが・・・しかし私は・・・」
    老師は夕鈴から聞いた事の詳細を黎翔に話し、黎翔はあの時の、意識が戻る前の不思議な感覚を思い出す。

    『なんだろう・・・温かいものに包まれて・・・気持ちいい。・・・あぁ、弾ける・・・』

    「お妃は気が動転して冷静さを失っていたのでしょうな。しかもあの辺りの地理にも疎い。助けを呼びに行くにも、その場を離れられなかったのでしょう。己の少ない知識の中から、どうしたら・・・、それだけだったのです。決して陛下を辱める為に、その様な事を仕出かした訳ではありません。」
    「では彼女は、私を助けたいが為だけに、己の純潔を失ったと言うのか?」
    「そうです。陛下を助ける為です。」
    「何故私に隠す必要があった?」
    「本来なら陛下のお子を身籠るはずの無い、仲良し夫婦を演じる“臨時花嫁”だったからでしょう。」
    黎翔は無言で立ち上がり扉に向かう。
    「陛下、どちらに・・・」
    老師のその声に黎翔は立ち止まり、
    「あれ程私思いの妃はいない。李順を説き伏せる理由が出来た。」
    そう告げ、扉を出て行った。



     翌日早朝、夕鈴の実家の入口を叩く音に青慎が出る。
    「はい、どちら・・・りっ李翔さん?」
    「夕鈴はいるかな?」
    「あの・・・何をしに居らっしゃったんですか?」
    「・・・夕鈴に会いに。」
    「姉さんは・・・帰って来てから部屋から一度も出てきていません。」
    「じゃあ、入らせて貰うね。」
    「え、ちょっと待って・・・」
    黎翔は青慎の制止も聞かず、夕鈴の自室に向かう。扉を開け、
    「夕鈴、迎えに来た。」
    「え、陛下?何で此処に?」
    「君がいなければ、私は食事も喉を通らないし、眠る事もできない。」
    「でも・・・私から辞めたんです。もう、此処に来るのは・・・」
    「老師から話を聞いた。老師ではなく、私に相談してほしかった。お腹の子は君だけの子ではない。私からその子を引き離すつもりか?」
    「でもこの子は、私が疚しい事をしたから出来た子なんです。」
    「夕鈴、疚しい事ではない。疚しい事と言うのは己の欲望のみを求めた場合だ。君は私を助けたい一心で行ったことだ。疚しい事ではない。」
    「でも・・・」
    俯き涙を流す夕鈴を、黎翔は包む様に抱き締める。
    「夕鈴、戻って来てくれ。私には君が必要なんだ。」
    黎翔は体を離し、夕鈴の頬を撫で上を向かせると、彼女の唇を己のそれで塞ぐ。それは徐々に深くなっていき、開けっぱなしだった扉の前を通った父に目撃された。
    「え、えっと・・・」
    その声に夕鈴と黎翔は振り返り、
    「夕鈴のお父上ですね。彼女は私の子を身籠っている。依って連れ帰り、花嫁として迎えたい。ご了承頂けますね。」
    「み・・・身籠っている!?あんた、嫁入り前の娘に手を出したのか?身籠ってちゃ他に嫁げないじゃないか!責任取って、ちゃんと花嫁として迎えてくれ!!」
    「では、このまま連れて行っても?」
    「当然だ!」
    ワナワナと体を震わす父を余所に、
    「夕鈴、私の意識の無い時に初夜を済ませてしまうとは・・・。しっかりと私の意識のある時に君を味わいたい。子を産むと感触が変わるらしいから、その前に・・・安定期に入ったら初夜のやり直しをしよう。」
    「はい?陛下何を仰って・・・」
    「君の破瓜は味わえなかったが、やはり子を産む前に・・・な」
    夕鈴の頬を両手で包み口付けを降らせる黎翔を、傍らで見ていた夕鈴の父は、
    「ところであんたは誰なんだ?」
    夕鈴と黎翔は振り返り、
    「失礼致しました。私は珀黎翔と言う者です。」
    そう伝えると黎翔は、彼女に口付けながら静かに扉を閉めた。
    扉の前に残された父は、
    「まったく、なんて男だ!しかし珀黎翔とは聞いた事のある名だな。」
    自室の扉の内側で、震えながら様子を伺っていた青慎は扉の隙間から、
    「父さん、“珀黎翔”って、・・・国王陛下の名前だよ。」
    「国王?そんな訳ないだろう。」
    「でもあの人が姉さんの部屋に入って行った時、姉さんは“陛下”って呼んでたよ。」
    「・・・って事は、本当に国王なのか?」
    ・・・父は白目を向き、口から泡を噴きながら後方へと倒れていくのであった。


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